慢性膵炎
- 2024年12月6日
- 膵疾患
前回は急性膵炎のお話でしたが、今回は慢性膵炎の説明です。
膵臓には血糖値を下げるインスリンをはじめとした内分泌ホルモンを分泌する機能と消化酵素などの外分泌ホルモンを分泌する機能を併せ持ちます。慢性膵炎というのはこの機能が長い年月をかけてゆっくりと破壊されていく病気です。急性膵炎のような上腹部や背部の疼痛発作が慢性的に繰り返し起こります。これは膵液の通り道である膵管が炎症のために細くなったり、蛇行したり、また膵石ができたりすることで、膵液の流れが悪くなり、膵管内圧が上昇するために痛みがでると考えられています。それと同時にインスリン機能が低下するために血糖値が上昇して、糖尿病を併発したり、消化酵素の分泌低下に伴い、脂肪の消化や吸収が悪くなることで、脂肪便とよばれる白色の脂の浮いた便がでたり、栄養状態が不良となります。慢性膵炎になってしまうと自然に治ってしまうということはなく、病気はゆっくりと年単位に進行していきます。
症状は病気の進行度(ステージ)によって変化します。慢性膵炎の初期には膵臓の機能は保たれている(代償期)には腹痛が主な症状です。慢性膵炎が進行すると次第に膵臓の機能が低下し(移行期)、さらに進行すると膵臓の機能は著しく低下し(非代償期)、腹痛は軽快しますが、脂肪便や下痢、体重減少、糖尿病の発症や増悪がみられるようになります。最終的には膵臓はほとんど機能しなくなってしまいます。また慢性膵炎は膵がんの発生率も高くなります。
原因は飲酒が一番多いですが、大量飲酒をすればだれでも病気になるわけではありません。男性が多く、体質が関与しているという説もありますが、まだ明らかにはなっておりません。一方で女性では特発性といって原因不明のことも多くあります。また喫煙も慢性膵炎にかかりやすくなる要因のひとつといわれております。その他は脂質異常・副甲状腺機能亢進症も原因として知られております。
検査の方法としてはまず血液検査や尿検査でアミラーゼやリパーゼといった膵酵素の異常が診断の手がかりとなります。膵機能が保たれているうちは膵酵素は上昇しますが、機能が低下すると逆に膵酵素は低下します。腹部エコーやCT、MRIといった画像検査も併せて行います。膵石の有無や膵管の蛇行や狭小化を確認します。また超音波内視鏡といった内視鏡の先端にエコーの機能をつけた内視鏡の検査も早期の慢性膵炎の診断に有用との報告もあります。
治療はまず原因を取り除くことが重要です。多くは飲酒が原因となってますので禁酒は必須です。また喫煙も膵炎を進行させることがわかっているので禁煙も重要です。これらを前提にして薬物治療を併用して行います。腹痛に対しては鎮痛剤や蛋白分解酵素阻害剤を使用します。
また膵管が狭くなっている場合は、内視鏡を用いて膵管にプラスチックの管(ステント)を留置して膵液の通り道を確保する処置を行います。また膵石を形成して膵液排出の障害になっている場合は、内視鏡を用いて膵管内の膵石を排出したり、体外から衝撃波で結石を破砕する処置(ESWL)なども行われます。これでも疼痛が治まらない場合などには手術加療が行われます。
経過が長くなり疼痛が引いて非代償期に入ると、膵のホルモン分泌能が低下しやがて機能不全に陥ります。それにより糖尿病が発生すれば糖尿病に対する治療が必要になってきます。また消化酵素が不足しますので、脂質が体内に吸収されにくくなります。栄養失調にならないために、その消化酵素の補充を内服で行う必要があります。また膵がんが発生しやすくなっていますので、定期的な画像検査も必要になってきます。糖尿病の発生や膵がんが発生したりしますので、一般的に寿命は短くなり予後は不良となります。
慢性膵炎になってしまうと一生付き合っていかざるを得ないやっかいな病気ですが、それほど頻繁にみる病気ではありません。ただ飲酒はやはり大きな原因の一つになりますので、特に大酒家の方(1日5合以上の飲酒)はアルコール摂取量を減らすなどして、注意をするようにしてください。
豊中市西緑丘3丁目14ー8
みやの消化器内科クリニック
院長 宮野 正人